Interview インタビュー

患者さんと社会への価値の最大化を追い求め続ける

医療法人社団ときわ 理事長 兼 医療法人社団ときわ赤羽在宅クリニック 院長 小畑 正孝

ときわの果たすべき役割

医療の水準は日々上昇し、誰もが高度な医療を享受することができるようになり、以前は治らなかった病気も治すことや症状をコントロールすることができるようになりました。その一方で、患者さんの治療方針は医療提供する側や業界の都合によって決められてしまい、これまで患者さんの希望は後回しにされてしまうこともありました。医療法人社団ときわは、そのように医療の都合によって患者さんの選択肢が制限されてしまう医療の現状を変えたいという思いをきっかけとして赤羽の地にて発足いたしました。
ときわは「人に寄り添い、未来に挑む。」を理念に掲げ、質の高い医療を提供すること、そして社会インフラとして質の高い医療を広めることを最大の目的としています。我々は、質の高い医療とは単に最先端の高度な医療を提供することだとは考えていません。ただ患者さんの体の状態に対処していくのではなく、患者さんの全てを診て、「なにが幸せで、どう過ごしたいのか」というその人の価値観に見合ったその人にとって最もふさわしい治療を行っていくことこそが質の高い医療だと考えています。例えば高齢者の慢性疾患についてですが、適切な治療が為されず漫然と放置されているのみならず無駄な薬が大量に処方されてしまって却って健康を害してしまっているケースが非常に多く見られます。本来、慢性疾患であったとしてもしっかりと診断、治療をすれば改善することが多くあります。高齢だから、以前からそうなのだからと思考停止に陥ることなくアセスメントを常に繰り返し、現状の治療が最適か問い続ける姿勢が質の高い医療には欠かせません。また、単純な病気、複雑な病気に限らずなぜそうなってしまったのか背景を探り、原因や放置するとどうなるのか、行う治療はどういったものなのか、何が治って何が治らないのか、治らない場合はどう付き合っていくことができるのかを患者さんへ全て説明し理解できるよう導くことも治療の質を上げる鍵となります。同じ医療行為であったとしても患者さんが治療への十分な理解によって納得して治療を受けることができ、その上で本人の価値観に見合った治療を施すことができて初めて質の高い医療を提供したと言えるでしょう。


質の高い医療の普及のために

また、ときわはただ質の高い医療を提供するだけでなくそれを社会インフラとして広めていくことも使命の一つとしています。現在日本には多くの専門医や高度な医療機関が存在していますが、患者さんがそういった医療機関にフリーアクセスできてしまうがために本来不必要な人が先端治療や救急医療を利用してしまったり、反対に必要な人が適切な医療機関を受診できていなかったりと需要と供給のミスマッチが発生してしまっています。現状の医療インフラの構造では患者さんが自ら選んで質の高い医療にアクセスすることは非常に難しくなってしまっています。ときわでは質の高い医療の提供とは、人が不調を感じたときに入口となる医師が患者さんの状態や価値観を見極めて、本当にふさわしい治療を受けることができる環境の提供でもあると考えています。このような環境を年齢や地域に関係なく誰でも享受できる社会インフラとして整備することがときわの将来的な目的であり「未来に挑む」理念です。今は親和性の高い在宅医療を中心に展開していますが、将来的には外来でも同じような医療を受けることができるよう在宅医療に限らず質の高い医療が提供される環境の整備を目指しています。

 

総合診療の教育の場としてのときわ

質の高い医療の提供の普及のため、総合診療医の育成も行っています。患者さんの入口となる医師がしっかりと患者さんの全てを診て、見極めた上で本当にふさわしい医療を提供することこそが質の高い医療であり、入口となる医師は患者さんを適切な医療へと繋げる役割を担います。プライマリ・ケアの場で中心的役割を果たすべき医師には本来総合診療医としての専門性が求められますが、総合診療という概念は比較的新しく現在医療への入口の役割を果たしている開業医の多くが総合診療のトレーニングを受けていません。そして日本には総合診療のトレーニングができる環境はまだまだ十分ではありません。ときわでは積極的に若手の医師を採用し、総合診療を学ぶ場としての役割も果たして行きたいと考えています。


総合診療医に求められること

総合診療医には

 

  • 患者さんの病気を診るのではなく、生活なども含めた患者さんの全体を診る
  • 治療そのものを目的とせず、患者さんの生活の質そのものの向上を目指す
  • そのためには患者さんについてのどんなことでも治療に関して関係のないことは存在しないという意識=その人の関わることはすべて診ていくという意識を持つ

 

といった姿勢を欠かすことはできません。そしてある程度以上の頻度の疾患については診断と治療をしっかり行えること、頻度の少ない疾患は診断を行えることが重要です。また、疾患ごとに個別に治療するのではなく複数の症状、疾患を全体としてマネジメントしていく必要もあります。最近はインターネットを通じてすぐに膨大なデータにアクセスすることができるので、詳細な知識を身につけることよりも全体の概要を知識として持ちながら必要なことはすぐに調べるという姿勢のほうが大事だと考えています。


これからの医療の価値とは

これからはただ生きている、病気をしていないということが医療の価値なのではなく、「どう幸せに生きていくか」ということがこれからの重要な価値の指標となって行くでしょう。医療者もそれに対応していかなければなりません。ときわでは、従来の医療機関にある先入観や既成概念、慣習は捨てて、効率化できるところは効率化し、医師・看護師に限らず全てのスタッフが患者さんに対する価値を追い求め続ける姿勢を持っています。今後もどんどん時代に合わせて変化していくことを厭わず、良いものは取り入れていらないものは捨てていきながら患者さんと社会にとっての価値を作り出し続けることを目標としています。

小畑 正孝 医療法人社団ときわ 理事長 兼 医療法人社団ときわ赤羽在宅クリニック 院長

小畑 正孝 医療法人社団ときわ 理事長 兼 医療法人社団ときわ赤羽在宅クリニック 院長

秋田県出身。東京大学医学部医学科卒業。
国際医療福祉大学三田病院で臨床研修後、東京大学公衆衛生大学院でMPHを取得。その後、私立病院の在宅支援診療所院長、在宅医療支援病院副院長などを歴任し、2016年9月に赤羽在宅クリニックを開業。翌年2017年に医療法人社団ときわを立ち上げ理事長へ就任。